雨が降る。
しとしと。しとしと。
ああ、冷たい。
自分と同じ名前のもの。
それはとても冷たくて。
自分の心もこんなふうに冷たいのだろうかと思って。
ああ、冷たい。
これでは、日向のように暖かい君には、好かれまい。
もう、僕を温める暖炉はないのだから。
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「レイン、」
「はいー?なんですかー、撫子君ー。」
「ここでは、雨は降らないの?」
九楼撫子。
キングの想い人。
僕の願いへの踏み台になる存在。
そんな彼女は唐突にそんなことを言い出した。
「雨、ですかー?そうですねー、頻度は少ないですけどたまになら降りますよー?
というか、そんなこと聞いてどうするんですー?別に雨なんて降らない方がいいでしょうにー」
「あら、そんなことないわよ。雨の音は落ち着くもの。やさしいわ。」
やさしい?
自分にとって雨は、冷たいものだ。「やさしさ」なんてない。
だって、「雨」は「ボク」なのだから。
「あはは、おかしなことを言いますねー?
雨がなんでやさしいんですかー?」
「あら、雨は恵みよ。私たちを生かして、ここに居させてくれるもののひとつよ。
雨は乾いた場所に降って、私たちを生かしてくれる。それって、やさしいと思わない?」
それに、と彼女は続ける。
「雨は本心を隠してくれる。涙を隠してくれる。それは私にとってはやさしさだわ。
雨だけが、私の心を知っているの。」
ふわり、とほほ笑んだ。
「へえー、なるほどー。今後の参考に覚えておきますねー。」
「何の参考よ…」
それがもしほんとなら。
ボクは君の心を知れるのだろうか。
冷たいだけの「雨」ではなくて、やさしい「雨」に、ボクはなれるのだろうか。
暖かい暖炉がなくても?
君のそばに、居れるのだろうか?
------「ボク」は冷たく降る「ソレ」だ。-----
レイ撫続き物。第五話まで続きます。
お題:「群青三メートル手前」より